グリーグ/ピアノ協奏曲 イ短調 作品16

グリーグ(Edvard Grieg 1843-1907)は、ノルウェーのベルゲンで生まれた作曲家、ピアニストである。弱冠15歳からドイツのライプツィヒで音楽を学び、やはり優れたピアニストだったシューマンの影響を受けたが、後年は、ノルウェーの民族的な傾向を強めた作品を送り出している。日本ではこの協奏曲のほかに、「朝」や「山の魔王の宮殿にて」でおなじみの『ペール・ギュント』が有名であるため、グリーグが管弦楽の作曲家というイメージが強いが、『叙情小曲集』などのピアノ曲にこそ、その素朴さと美しさがある。なお、余談であるが、その『叙情小曲集』のうち、北欧の雄大な自然に想いを寄せた「春に寄す」は、リズムやメロディーの譜割りがシベリウスの交響曲第2番の第1楽章を彷彿させることは興味深い。

第1楽章 Allegro molto Moderato イ短調 4分の4拍子

序奏は、ティンパニーのロールに引き続いて、ピアノが階段を転がり落ちるようなフレーズを奏でる。この序奏主題は、オルフ作曲の『カルミナ・ブラーナ』の冒頭や、バッハ作曲の『トッカータとフーガニ短調』の冒頭とともに、想定外の出来事に驚愕したときに、テレビ番組の中だけでなく、実際にわれわれの頭の中で流れる音楽である。また、ウルトラセブンの最終回でモロボシ・ダンがアンヌ隊員に自分の素性を告白するときに流れるBGMは、この協奏曲に影響を与えたとされるシューマンの同じくイ短調のピアノ協奏曲の冒頭である。

この楽章はソナタ形式となっており、提示部では先ず、木管楽器が第1主題(主調イ短調)を奏でる。ピアノが主題の確保を行い、小鳥が遊んでいるような経過句を経て、チェロがハ長調(平行調)の第2主題を奏でる。その後、強奏で始まる小結尾をトランペットのファンファーレで締めくくり、展開部へと移行する。展開部では、第1主題のモチーフを半音ずつ上昇させて繰り返す(ゼクエンツ)などして気分を高揚させたのち、落ち着きを取り戻してから再現部に移行する。再現部はソナタ形式の王道らしく、第1主題をイ短調(主調)で、第2主題をイ長調(同主調)で、それぞれ再現している。ピアノによる第1主題のモチーフを基本としたカデンツァの後、曲は終結部(コーダ)となり、ピアノが序奏主題を再現して第1楽章を終える。



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