シベリウス/交響曲第2番 ニ長調 作品43
シベリウス(Jean Sibelius 1865-1957)は、当時ロシアの支配下となっていたフィンランドのヘルシンキ近郊のヘメーンリンナという都市で生まれた。20歳の時にヘルシンキ音楽院でヴァイオリンと作曲を学び、その後、ベルリンやウィーンに留学し、主に作曲を学んだ。帰国してからは、音楽院の教師となり作曲の教鞭をとる中、1892年には、フィンランドの民族物語「カレワラ」を題材とした『クレルヴォ交響曲』、翌年には、北欧神話をイメージした交響詩『エン・サガ(伝説)』を発表し、フィンランドでの作曲家としての地位を確固たるものとした。その後、ヨーロッパ各地で自作を発表するなどして国際的な名声を高めていった。そんな1902年に発表したのが交響曲第2番である。
第1楽章 Allegretto イ長調 4分の6拍子序奏は8小節しかない短いものだが、弦楽器が湧き出るように奏でる序奏主題は、この曲の重要な役割を果たす。そこに、オーボエとクラリネットが第1主題を重ね、提示部を開始する。フルートも加わり主題を確保したのち、ヴァイオリンが副旋律を示す。弦楽器のピッツィカートの経過句を経て、木管楽器による第2主題が現れるが、21小節という短いもので、続いて示される小結尾(コデッタ)では、弦楽器の序奏主題に木管楽器が応答するという構成となり、その後、弦楽器が序奏主題を繰り返しながら勢いを弱めて、曲は展開部へ移行する。
展開部は2部構成となっている。前半は、提示部の小結尾における木管楽器の応答主題を中心に展開され、後半では、コントラバスが新しいモチーフを提示する。各楽器で展開しながら勢いを増し、第2主題を勇壮に示したのち、金管楽器が第1主題の副旋律を強奏すると曲は一旦停止(フェルマータ)する。そして曲は、再現部となる。提示部と同様に、弦楽器が序奏主題を繰り返しながら勢いを弱めていくと、そのまま、第1楽章を終える(この楽章のソナタ形式には終結部がない)。
第2楽章 Tempo andante marubato ニ短調 4分の4拍子この楽章は、北欧のもう一つの面、冬の厳しさを表現している。ティンパニーのロールにコントラバス、続いてチェロが重い足取りを表現する(序奏)。チェロのピッツィカートがオスティナート(同じ音形を繰り返すこと)のように変化すると、ファゴットが、寒さに耐えているような第1主題を奏でる。それにホルンが付点のリズムで呼びかける。これは、第1主題の結尾の金管楽器のコラールを暗示している。第2主題は弦楽器によって美しく現れる。これは、厳しさの中にも見ることができる冬の美しい光景を表しているようだ。結尾では一転して、低音楽器が冬の荒々しい気候を表現する。曲は再び第1主題と第2主題を繰り返す。したがってこの楽章の構成は、「序奏」-「第1部(第1主題部&第2主題部)」-「第2部(第1主題部&第2主題部)」-「終結部」の複合2部形式となっている。
第3楽章 Vivacissimo 変ロ長調 8分の6拍子この楽章も第2楽章と同様、複合2部形式である。序奏はないが、激しい第1主題部と、オーボエが奏でるのどかな旋律の第2主題部との対比は、「嵐」と「牧歌的風景」の対比のように思える。この対比構成は、ベートーヴェンの「田園」交響曲の第4楽章と第5楽章(終結部を除く。)との関係を連想させる。この対比が繰り返されたのち、曲は終結部となる。春が近づいてくる気持ちの高揚を表現しており、切れ目なく第4楽章に移行する。
第4楽章 Allegro moderato ニ長調 2分の3拍子第2楽章の「厳冬」、第3楽章の「気候の変化」を経て訪れた春への喜びを弦楽器の力強いモチーフで表現している(第1主題)。そこにトランペットとオーボエが明るい日差しを表現して応答する。この楽章は、先述した『田園交響曲』に例えるならば、その第5楽章の終結部に相当するものであろう。第2主題は、ヴィオラとチェロの不安げなオスティナートを従えて木管楽器が繰り返し奏でる。チェロのオスティナートに木管のメロディーという構成は、「厳冬」を表現した第2楽章の第1主題と同じである。即ち、この部分は「寒の戻り」と言ったところであろう。オスティナートの動きが荒々しくなると、金管楽器によるファンファーレ(副主題)によって第2主題部の頂点に達する。低弦のピッツィカートに誘導されて落ち着きを取り戻した小結尾(コデッタ)では、管楽器の奏でる第1主題のモチーフに、弦楽器が第2主題のモチーフで応答する。
展開部は、まずチェロが低音で第1主題のモチーフを、変化をつけながら表現する。その後、ファゴットが第2主題部の副主題を奏で、これら2つのモチーフを中心に展開が行われる。
再現部では、第1主題の再現ののちに第2主題の再現となるが、ここでは、再現するだけでなく、盛大に展開を行っており、そのまま終結部(コーダ)に移行する。そして、雄大で美しい自然への賛美を高らかに歌い上げて全曲を締めくくる。
ライプツィヒをはじめとする中部ヨーロッパの各都市に旅行する際、ひと昔前までは、当然のようにフランクフルトを経由していたが、近年は、ヘルシンキを経由する渡航者が多くなっている。次の機会には、「経由」するだけでなく、実際に北欧の自然に触れてみたい、そんな気持ちを起こさせる曲である。