映画『サウンド・オブ・ミュージック(The Sound of Music)』は、1965年に公開されたロバート・ワイズ監督、ジュリー・アンドリュース主演のミュージカル映画である。余談であるが「ロメオとジュリエット」のアメリカ版とも言うべき映画「ウエストサイド物語」と本作品の2作品において、ロバート・ワイズ監督はアカデミー賞監督賞を受賞している。
映画『サウンド・オブ・ミュージック』は、主人公であるマリア・フォン・トラップという実在する人物が自伝として記した「トラップ・ファミリー合唱団物語」(1949年)を原作として制作された映画「菩提樹」(1956年西ドイツ)を参考にして制作されたミュージカル「サウンド・オブ・ミュージック」(1959年ブロードウェイ)にさらに脚色を加え(曲順・演出の変更や曲の追加等を含め)て、オーストリア国のザルツブルクでロケを敢行して映画化された。
したがって、人物名や家族構成、設定などが実在とは少し違っているうえ、トラップ・ファミリーは聖歌隊であるためドレミの歌は歌っていない!が、娯楽映画として絶大な人気を誇っており、ミュージカルや映画のために作曲された数々の楽曲は、日本では誰もが知る名曲となっている。
なお、筆者がオーストリアに滞在したとき「ドレミの歌」に登場するミラベル宮殿で大はしゃぎして、その最終シーンが撮影された階段で「ソ、ドッ!」などと無邪気にしていたら「あれは、アメリカの映画だから見る気がしないよ」とオーストリア人は言った。現地ではそんな評判なのである。
今回取り上げるのは、その珠玉の名曲のなかから17曲をピックアップし、それらをストーリー順に演奏する。
では、今回演奏する曲をあらすじとともに解説しよう。
舞台は1930年代のオーストリア国ザルツブルク。主人公のマリアは修道女見習いである。
第1曲
プレリュードとサウンド・オブ・ミュージック(マリア、管弦楽)
マリアは、今日も修道院を抜け出し、
緑いっぱいの丘で、風を感じながら、音楽の調べの心地よさを歌うが、鐘の音でふと我に返り、あわてて修道院に引き返す。
第2曲 序曲(管弦楽)
この曲は、オープニングクレジット(題名や主な出演者の紹介)のBGMである。
第3曲 グレゴリオ聖歌(女声合唱)
第4曲 朝の賛美歌(女声合唱)
第5曲 アレルヤ(女声合唱)
修道院では、朝のおつとめの最中。
第6曲 マリア(女声合唱、管弦楽)
マリアに対して修道女たちが”a problem like Maria”と、そのお転婆ぶりに手を焼いてはいるものの、「食事以外は遅刻する」けれど「天使のようだ」などと、可愛がられてもいる。そこへマリアが遅刻をしてくる。
修道院長はマリアに、家庭教師をすることを勧める。母親を亡くした7人の子供のいる家庭に、しかも住み込みで!
マリアは、修道院長の勧めのとおり、トラップ家に向かう。マリアがトラップ家につくと、想像とはかけ離れた世界であった。子供たちの集合には「笛」が使われ、自分(トラップ大佐)のことを「キャプテン」と呼ばせるなど、まるで、軍隊のようだ。
第7曲 もうすぐ17才(管弦楽)
長女のリーズルは、ロルフという電報配達人に想いを寄せている。食事を抜け出して、電報を届けに来たロルフと庭でお互いの想いを語り合う。
第8曲 私のお気に入り(マリア、児童合唱、混声合唱、管弦楽)
夜、雷鳴が轟くと、マリアの部屋には「こわいのぉ」という小さな女の子や、「先生が心配で」と強がりを言う男の子など、子供たちみんなが集まってくる。そこでマリアは「悲しいときや辛いときは楽しいことを考えましょう!」と自分のお気に入りについて歌う。
子供たちと完全に打ち解けたマリアは、彼らの軍服のような服装を憂い、カーテンで遊び着を作成して、ピクニックに出かけた。母親が亡くなって以来、家から音楽が消え、子供たちも歌い方がわからないということを知ったマリアは、ギターを手に子供たちに歌のいろはを教えることにした。
第9曲 ドレミの歌(マリア、児童合唱、混声合唱、管弦楽)
第10曲 ドレミ・アンコール(マリア、児童合唱、混声合唱、管弦楽)
言わずと知れた名曲!解説は要りませんね。
出張先のウィーンから大佐が戻ってきたときに目にしたのは、カーテンで作った遊び着をまとい、はしゃぐ子供たちだった。「由緒あるトラップ家の子供たちに恥ずかしい格好をさせるな!」と大佐はおかんむり。「もう少し、子供に目を向けて優しく接してほしい。子供たちはそう願っている」と訴えるマリアだが、当然、大佐の怒りをかい「荷物をまとめて修道院に帰れ!」と言われてしまう。そこに子供たちの天使のような歌声が聞こえてくる。
第11曲 サウンド・オブ・ミュージック(大佐、児童合唱、管弦楽)
大佐が婚約者としてウィーンから連れてきたエルザの歓迎のために子供たちが歌う。その歌声に引き込まれた大佐が途中から歌に加わる。その大佐の歌声に子供たちがハーモニーで合わせるシーンは、音楽好きな方なら誰しも涙腺が緩んでしまうほどの感動を与えてくれる。
歌い終わると子供たちは、あまりのうれしさに大佐に飛びつく。大佐も子供たちの嬉しそうな表情に心が動き、マリアに対して先ほどの暴言を詫び、トラップ家に残るようにお願いする。
さぁ、客人への歓迎のセレモニーのはじまりだ!
第12曲 ひとりぼっちの羊飼い(マリア、児童合唱、混声合唱、管弦楽)
マリアと子供たちで披露する人形劇。ちょっと前まで歌い方も知らない子供たちとは思えない、楽しい歌の人形劇で、これを見た大佐の友人が、「トラップ・ファミリー」として音楽祭に出演することを勧める。余談であるが、邦題は「羊飼い」となっているが原題は“Goatherd”、つまり「山羊(やぎ)飼い」である。
続いてマリアに促されて、大佐がギター片手にエーデルワイスを歌う。その歌声に聞き惚れたマリアは、大佐に対して恋心を抱きはじめていた。
トラップ邸で婚約披露の舞踏会が開催される。
マリアがテラスで子供たちと「舞踏会ごっこ」をしていると、そこに大佐が現れる。曲がレントラーに変わると大佐は「一緒に踊ってくれますか」とマリアを誘う。2人はしばらく踊っているが目が合った瞬間「もうこれ以上は忘れました」とマリアは踊りを止めてしまう。3女のブリギッタから「マリア先生、お顔が真っ赤!」とのツッコミが入るほど、二人は恋仲に落ちたのである。
参考までに、レントラーとは、オーストリアのチロル地方やドイツのバイエルン地方で踊られていた農民舞踊に優雅さを加えて発展させた、ゆったりとした3拍子の舞曲の形式で、さらに都会っぽく洗練させて発展したものが「美しく青きドナウ」に代表されるウィンナワルツである。
大佐への恋心を自覚し、神に仕える身としては、もうトラップ家に身を置くことが出来ないと考えたマリアは修道院に戻る。修道院長は「愛を注げる夢を見つけるまで自分の道を歩きなさい」と激励する。ここで歌われるのが、本日は最終曲として演奏される「すべての山に登れ」である。
第13曲 何かよいこと(管弦楽)
マリアが戻ってくると、大佐はエルザに婚約を解消すると告げ、マリアのいる庭のパヴィリオン(西洋風あずまや)に向かい、そこで二人は愛の告白をする。
第14曲 行列聖歌(女声合唱、管弦楽)
マリアと大佐の結婚式が執り行われる。
新婚旅行から帰ってくると、大佐のもとにドイツ軍人としての出頭命令が届く。ドイツとの併合に断固反対の立場をとる大佐は亡命を決意する。
一家が亡命のため家を出ると、そこには大佐を出頭先に護送するための車が待っていた。大佐は即座に「音楽祭に出るんです」と言って護送を音楽祭終了まで延期してもらい、会場に向かった。会場では親衛隊の厳重な警備の中、コンクールが始まった。
第15曲「エーデルワイス」(大佐、児童合唱、混声合唱、管弦楽)
エーデルワイスは、ヨーロッパアルプスを生育地とするその名の通り「気高く白い」オーストリアを象徴する花。その花に「祖国よ永遠なれ」との想いを込めた歌である。ドイツ併合を憂いでいる観客たちが、祖国への想いから歌唱に加わり、会場全体での合唱となる。観客が全員で歌うことから、オーストリアの“第3の国歌”又は“民謡”のように勘違いされるが、ミュージカル用に作曲された曲で、オーストリアでの知名度は日本ほど高くない。なお、第2の国歌として認識されているのが《美しく青きドナウ》であることはご存知のとおり。
第16曲 さよなら、ごきげんよう(児童合唱、混声合唱、管弦楽)
コンクールでの歌唱としてとりあげたため、この部分での演奏としているが、この曲が初めて登場するのは上記の舞踏会で、子供たちが寝室に引き上げる際にひとりひとりが招待客への挨拶として歌った。
コンクールの賞が発表されている間にトラップ一家は会場から抜け出す。そのことに気がついた親衛隊が彼らを追う。一家が修道院に逃げ込むと、そこにも追っ手が迫っていた。国境の道路が閉鎖され、行き場を失った一家が墓の裏に隠れているところを突撃隊の一員となったロルフに見つかる。大佐が「君も一緒に逃げよう」と誘うが、ロルフは「(トラップ大佐は)ここにいます!」と上官に知らせてしまう。この息詰まるシーンは、初めてこの映画を見たときに子供ながらに怖くて、手で顔を覆ったその指の隙間から画面を見ていた思い出が誰しもあるのではないだろうか。
トラップ一家が逃げ出すと親衛隊が車で追おうとする。しかしその車のエンジンがかからない。そのころ修道院長の部屋ではシスターたちが「罪を犯してしまいました。」と告白している。彼女たちの手には取り外された車の部品が握られていた。
最終曲 すべての山に登れ(全員)
追っ手を逃れたトラップ一家は一晩中歩き続け、山を越え、スイスに亡命することに成功した。小さい子供たちも徒歩で山越えする感動のラストシーンである。
なお、実際のトラップ一家は、スイスではなくイタリアへの出国の後、フランス、イギリスを経てアメリカに渡り、そこで「トラップ・ファミリー合唱団」として活動することとなるが、『サウンド・オブ・ミュージック』では、オーストリアからの出国に成功するまでを描いている。