シューベルト/交響曲第8番《ザ・グレート》

作曲者のフランツ・シューベルト (Franz Schubert) は、1797年1月31日にウィーン郊外で生まれたオーストリアの作曲家である。サン=サーンスと同様、幼いころから音楽の才能を発揮し、宮廷少年聖歌隊(のちのウィーン少年合唱団)に所属するなどした。

シューベルトは一般的に「歌曲の王」と呼ばれ、その600を超える歌曲の数々は音楽史上極めて重要であるが、生活は苦しく、学校教師をしながらの作曲活動であった。大きな会場での発表という機会にはなかなか恵まれなかったものの、彼の才能を認める友人たちが「シューベルティアーデ」なる同好会を結成し、そこで多くの作品が発表された。

さて、シューベルトの交響曲については楽曲解説では避けて通れない事項がある。それは交響曲の採番である。

この通称《グレート》交響曲は、筆者が生まれたころは「第9番」と呼ばれていた。しかしながらそれ以前は「第7番」であった。これは当時、「完成した」7曲の交響曲だけに採番したため、完成が一番遅かった《グレート》が第7番となったのである。

その後、1950年ごろにオーストリアの音楽学者ドイチュ (Otto Erich Deutsch) が作曲時期に対応した作品目録を発表し、除かれていた2曲の未完の交響曲(ホ長調―第7番、ロ短調―第8番:通称《未完成》)を作品に含めたので《グレート》が第9番となり、日本では高度経済成長時代にクラシック愛好家が増えたことと重なり、「グレートといえば第9番!」と認知され、定着した。その後、1980年ごろにドイチュ番号の改定が行われ「自筆譜で演奏できるもののみが完成された作品である」と定義したため、オーケストレーションされていないホ長調の交響曲が除かれ、結果、《未完成》が第7番、《グレート》は第8番ということになった。しかしながら、定着した「第9番」の呼称は捨てきれず、現在では「第8(9)番」という、カッコ書きを併記する形で「第9番」としての表記を残すこともある。