DIE KOKUBUNJI PHILHARMONIKER
 ■ 国分寺フィル演奏会演奏会記録(1996年〜2000年)第16回定期演奏会

ショパン ピアノ協奏曲第1番ホ短調 作品11

数々のピアノ曲で知られるショパン。彼はピアノとオーケストラのための作品をいくつか残しているが、最もよく知られ、また人気の高いのがこの「第1番ホ短調」である。

1830年、20歳のショパンはパリへ赴くことになり、その年の10月におこなわれた告別演奏会のなかでショパン自身がピアノ独奏を受け持って公開初演され、非常な好評を博した(それ以前に友人たちの前でピアノで試演していた)。その後ショパンは故郷に戻ることなく、1849年、パリで39年の生涯を閉じた。
先に作曲され、「第1番」の前の年に発表された「第2番へ短調」(出版された順で番号が入れ替わってしまうのはショパンに限らずよくあることである)と並んでオーケストレーションに問題があるとされ、以後自信をなくしたショパンはオーケストラ曲を書かなくなってしまった。とはいえ、そこはピアノの名手、ピアノ・ソロのパートはオーケストラに対し一歩も退かぬ、若きショパンの健気な姿が目に浮かぶような、きらめきに満ちた音楽が展開される。

オーケストラ・パートは出版の際、問題があると唱えるおせっかいな人々によって訂正が加えられ、以後その版がよく使われたが、最近ではオリジナルで演奏する例が増えているようである。彼のピアノとオーケストラのための「ドン・ジヨヴァンニの主題による変奏曲」(17歳の時の作品)を聴いて「諸君、脱帽したまえ、天才だ!」という有名な書き出しで始まる論文を残したローベルト・シューマン(1810-1856)もオーケストラ作品については評価は低く、近年まで他人が改訂したヴァージョン(ほとんどの場合、指揮者がバランスをとるために音量などを変えているのだが、グスタフ・マーラー(1860-1911)によるオーケストレーションそのものの改変は有名)による交響曲が演奏されていたというのは皮肉な事だ。


ムソルグスキー(ラヴェル編) 組曲《展覧会の絵》

華麗なるオーケストレーションでいまも人々を魅了し続けているラヴェルはピアノや室内楽の分野でも優れた作品を残しているのだが、やはり「ボレロ」や「ラーヴァルス」「スペイン狂詩曲」をはじめとするオーケストラのための作品−それは2つのオペラ(「子供と魔法」「スペインの時」)や管弦楽伴奏の歌曲「シェエラザード」も含めてよいだろう−がラヴェルの管弦楽に対するテクニックの巧みさを表出して余りある。1922年、ボストン交響楽団を率いる指揮者セルゲイ・クーセヴィツキーの委嘱(この人が委嘱し初演して有名になった作曲家たちの作品は数知れない)によって編曲されたムソルグスキーのピアノ曲「展覧会の絵」はラヴェルの名を更に高めることとなり、世界中で演奏されるようになった。内向的でしかも演奏効果には乏しいオリジナルのピアノ版とは反対にオーケストラの魅力を存分に引き出したアレンジとなっており「音の魔術師」の面目躍如といったところである。死後40年もたって自分の作品がオーケストラ曲として生まれ変わるなど、ムソルグスキーは考えも付かなかったであろうが、もし聴いてみたらどんな顔をした事やら。しかし、ラヴェルによってアレンジが成されなかったらこの作品はここまでポピュラリティーを獲得できなかったと断言してもよい。後に何種類かの「展覧会の絵」の管弦楽アレンジ版が出ているが、魅力的、という点だけにおいても到底ラヴェルのそれには及んでいない。

ムソルグスキーと親交のあった画家ヴィクトール・ハルトマンが亡くなった後催された遺作展で彼が観た10の絵画の印象を綴ったもの。そしてムソルグスキー自身が会場を歩いて回り、亡き友を偲んでいる様子を表わした「プロムナード」が5曲挿入される。ラヴェルは編曲に際し「リモージュ(市場)」の前に挿入されているプロムナードを削除している。

各楽曲の解説を簡単に記しておこう。

プロムナード(I)
展覧会の会場に着いたときの作曲者の気持ちや雰囲気を表わしている。
グノームス(こびと)
醜いこびと妖しく歩き回る。
プロムナード(II)
古い城
中世に建てられた古城の前で、吟遊詩人(サクソフォン)が回想して懐古的な歌をうたう。
プロムナード(III)
テュイルリーの庭
テュイルリーは現在のルーヴル美術館の脇にある庭園。母親たちが子供を遊ばせている情景。
ブィドロ
牛にひかれた、大きな車輪のポーランドの荷車。
プロムナード(IV)
殻を付けた雛の踊り
孵化しかかったヒヨコが殻から抜けきれず、くちばしで殻をつつきながらよろめいている。
サムエル・ゴルテンベルクとシュミュイレ
豊満な金持ちユダヤ人ゴルテンベルク(低弦)と痩せこけた貧乏小作人シュミュイレ(弱音器付きのトランペット)のユーモラスな対比。シュミュイレがペコペコしながらゴルテンベルクからお金を借りようとしている。
リモージュ(市場)
フランス、リモージュの市場の情景。女たちが買物をし、世間話に花を咲かせたり、と賑やかな様子。
カタコンブ(ローマ時代の墓)
世界史を勉強された方はお判りであろうが、カタコンブとはローマ時代の、地下につくられた共同墓地である。暗いクラ〜い墓の中の不気味な雰囲気が醸しだされる。
死せる言葉による死者との対話
前曲「カタコンブ」から続く曲で、プロムナードのテーマが変形されて現れる。これは死者の祈りの声とされる。
ババ=ヤガーの小屋
ロシアの民謡に出てくる魔女、ババ=ヤガーをあらわす。彼女は人間の骸骨を集め回って煮えたぎった鉄鍋の中に放り込んで煮詰め、道に敷きつめてその上をホウキに乗って飛んでゆくという(実際いたらオソロシイですけど、そんな事するなんて何考えてるんでしょうね、まったく…)。
キエフの大門
ハルトマンが設計に携わり、実際に建設される予定だったという古いロシア様式による大きな門を描く。オーケストラが総動員され、全曲を締めくくる圧倒的音楽。

解説:藤本 崇
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